「あ……撮影用の衣装だった」

もちろん衣装にサイフなどの自分の私物を入れることもないし、そもそもポケット自体ついていない衣装だった。
これではカフェオレは買えないし、一度戻ってまた買いに来る時間もない。

「飲みたかったなぁ」

「……あの」

名残惜しそうにカフェオレを見つめていたら後ろから聞いたことのある声が聞こえたので振り返る。
するとそこにはアッシュブラウンでウルフカットの見知らぬ男性が立っていた。

「……誰でしょう？」

聞いたことがある声だから知り合いかと思ったら全く知らない人だった。
勇菜は不思議に思ってじっと見つめていると、話しかけてきた人が仄かに頬を染めた。

「一ノ瀬隆矢(いちのせ　りゅうや)と言います。
Shineのユウナさん、ですよね？」

「はい、そうです。
あの、聞いたことがある声ですけど、どこかでお会いしましたか？」

「えっ」

聞いてはいけないことだったのか、隆矢はピクッと体を跳ねさせると口元を片手で隠し少し視線を反らした。