「今すぐ必要な物はだいたい片付いたかな?」

「そうだね。
後はまあ、追々ゆっくりやるとして……とりあえずご飯にでもする?」

「うん!やっぱり引っ越した日はお蕎麦だよね!」

ほら見て、買ってきてたんだよ!と冷蔵庫から一袋ずつ包装されている蕎麦の麺を取り出して見せると、さすが準備がいいね。と隆矢が笑った。

二人で並んで蕎麦を湯がいて、真新しいテーブルで向かい合わせに座ると、いただきます。と二人手を合わせた。

「そう言えばさ、引っ越し蕎麦って昔は自分達が食べるものじゃなかったらしいよ」

「へ?」

唐突に言われた話に勇菜はもぐもぐと蕎麦を粗食していたのもありなんとも間抜けな声が出てしまったのだが、隆矢は目を細めて話を続けた。

「この前出たクイズ番組で初めて知ったんだけど、元々は近所に配る物だったらしいんだ。」

「えー……私もう配る物用意しちゃった。
タオルとかありきたりだったかな?今からでもお蕎麦に変えるべき?」

「いや、タオルで良いと思うよ」

今はそっちの方が主流でしょ。と言われてそれもそうかと納得してると、ふと隆矢がじっと見ているのに気付いて首を傾げた。

「何?どうかした?」

「いや、ずっと聞こうと思ってたんだけど……」

いつの間にか蕎麦を食べ終わっていた隆矢は箸を置いて、少し聞きづらそうにしているので勇菜も箸を置いて姿勢を正して真っ直ぐ隆矢を見つめた。