「今日のユウナちゃんの転けっぷりよかったよー」

「ありがとうございますー」

「思いっきりお尻打ってたみたいだけど大丈夫?」

「大丈夫ですよー、いつものことなので」

それって大丈夫って言うの?と笑われ、言うんですよー。と笑い返した。
デビューした時からやっているライブ後の握手会でいつも来てくれる人も初めての人も、気さくに話しかけてくれるこの時間が楽しくて大切で、自然と満面の笑みを浮かべていた。

私、越名勇菜(こしな ゆうな)は兄妹アイドルユニットとしてデビューして二年目になるところで、目指しているトップアイドルにはまだ遠いところにいる。
そして隣で爽やかな笑顔を浮かべて握手しているのは私の兄、越名陽人(こしな はると)と言ってさっき口パクで“バカ”と伝えてきた人。
訳あって二人の名前が“ユウナ”と“ハルト”ということ以外は全て非公開で活動している。

「ユウナちゃん、こんにちは」

「あ、こんにちは!
今日も来てくれたんですね」

呼ばれて次に並んで待ってくれていた人に顔を向けると、そこには初ライブの時からよく来てくれている目深に帽子をかぶって眼鏡をかけたマスク姿の男性がいた。
顔はほとんど見えないけれどその姿はインパクトが強く、とても印象的だったので大勢のファンの中でも一際早く覚えた人の一人だった。