「いくらギプスで固定してるからって凶器じゃないんだから、あんなに思いっきり殴っちゃ治るものも治らないじゃない!」

痛くない?さらにヒビ入ったりしてない?と怒り半分心配半分で右手を手に取りギプスの上から状態を確認しようとしていたら隆矢が眉を下げて、うん、ごめん。と謝った。

「さっきのシーンだったらああした方が迫力でるかなって俺のアドリブだったんだけど、ユウナが来てると思わなかったから」

「うんうん、満足のいく迫力のあるシーンが撮れたよ」

言葉通り満足そうに監督が頷いていたので、勇菜は慌てて監督に向き直ると頭を下げた。

「大事なドラマの撮影中に主演に怪我させてしまって申し訳ありませんでした。
もっと早く挨拶に来ないといけなかったんですけど……」

「ああ、いいよいいよ。
そういう堅苦しいの苦手だし、一ノ瀬君の怪我のおかげで閃いたシーンもあったしね」

本当に気にしていないように笑う監督にほっと胸を撫で下ろすと勇菜は、あの、それで……。と気になっていることを聞こうと口を開いた。

「隆く……一ノ瀬さんが無理矢理出演シーンを前撮りしたっていう話は……」

「待って、後で俺が説明するから」

そう言ってどこか恥ずかしそうにしている隆矢とニヤニヤしている監督に首を傾げ、それからまたすぐに始まってしまったドラマの撮影を大人しく見学することになった。