「その怪我……」

「あ、はい」

「勇菜を守って負ったと聞いた」

「……いえ、俺が受け止めきれなかっただけです」

そう悔しそうに視線をそらしながら言った隆矢の肩に勇人が手を置くとすれ違い様に、何か呟いていた。

「越名さん……」

「……行ってくる。
帰るのは来週になる」

「行ってらっしゃい、ありがとう!」

久々に見せた満面の笑顔でのお見送りに勇人が小さく微笑むとそのまま仕事に向かっていった。
はぁ……。と緊張の糸が切れたようにその場に座りこんだ隆矢に思わず陽人と二人で笑ってしまった。

「緊張した……。
でも、いいの?本当にお世話になって……」

一人でもなんとか大丈夫だよ。と言う隆矢に勇菜は首を横に振ると、これは越名家全員のお礼だから。と言った。

「お礼?」

「助けてくれたお礼。
だから手が治るまではここにいてお世話させて?」

「そうそう。
そもそも隆矢を家に呼ぶのを提案してきたの、あの父さんからだったんだ」

「越名さんから……」

「私もお兄ちゃんもビックリしちゃったよね」

もしかして勇人の中で隆矢の好感度が上がったのかもしれないと勇菜は嬉しくてたまらなかった。
宣言止まりの婚約ももしかしたら少しは前に進めてくれるかもと思っていると玄関から、ただいまー。と声が聞こえてきた。