「あなたにとっては“こんなこと”でも、私にとっては“こんなこと”じゃないわっ!」

「ユウナ!?」

ペットボトルの音と美佐の怒鳴り声が聞こえたのだろう、楽屋の扉を開けようとする隆矢と堀原の行動を一早く察した勇菜は咄嗟に背中を扉につけて全体重をかけた。

「大丈夫だよ。
だから入ってこないでね」

慌ててそう言うと扉を開けようとする気配はなくなりほっと息をついていると、美佐はさらに近くにあるものを床に叩きつけていた。

「どうして!どうしてあなたなの!?
私の方が長く隆矢君のこと好きだったのにどうして!!」

「草野さん……」

「どうしてパッと出てきただけのあなたなの!
どうして私じゃないの……」

投げつけるものがなくなり美佐はその場に座り込むとポロポロと涙を流し始めた。
その姿が、自分が隆矢に振り向いてもらえなかったらこうなっていたかもしれないと考えてしまい胸がズキッと痛んだ。

「確かに私はパッと出てきただけかもしれませんけど、それでも、私は誰にも負けないくらい隆君のことが好きです。
それを認めてもらおうとは思いません、でも隆君は誰にも譲れません」

そうはっきり告げるも美佐は顔を覆い俯いたままで、暫く待っても何も反応がなかったので勇菜は頭を下げると静かに楽屋を出た。

「……私だって、譲れない」

美佐の呟きは誰に聞こえるわけでもなく、荒れ果てた部屋に静かに消えていった。