寂しがり屋の月兎

話しかけるまでに何度か息を吸って、吐いて、呼吸を整えなければならなかった。

心音が平常に近くなったか、というところで兎田を見上げる。

「兎田くん。あの、どこに向かってるの……?」

「いいところ」

花のような笑みを望に見せて兎田は言う。

いいところって、どこ。

とは訊き返せなかった。

訊いてもはぐらかされそう、というのもあったが、まともに兎田の笑顔の光を浴びて俯かざるを得なくなったからである。

本当に心臓に悪い男である。

望は熱い頬を冷まし、心臓を落ち着かせることに全力を尽くしはじめた。