「青山君」


N高校の購買で藍は肩を叩かれた。


カールがかかった髪をゆるく三つ編みにしているその女子は、藍と目が合うとニッコリ微笑んだ。


「今朝はありがとう」


「えーっと…」


「一年生の子に聞いたの」


今朝、藍がN高校の最寄りの駅を降りると、前を歩く同じN高校の女子から何かが落ちた。

拾うとN高校の学生証だった。


「おい」


ゆるい三つ編みを揺らして振り向いた彼女は大きなアーモンド型の目を細めてニッコリ笑う。


「落とした」

「わっ!気が付かなかった!ありがとう!」

「おう」


そのまま藍は小走りにその場を離れた。

「朝お礼言いたかったのに、すぐ行っちゃうから」


「拾っただけだしな」


「ね、コーヒーしよ。お礼に奢るから」


「別にいいよ」

「私2年の佐橋優(さばしゆう)」

藍の返事は聞かずに優は藍の腕を組むと、「コーヒー2つください」と言った。