「舌出して」


吐息の混じった純の声が間近で聞こえる。

未来はなんとか首を横に振るが、気持ちとは裏腹に純の言葉に従ってしまう。


未来は半分無意識のうちに、確実に未来を捉えて絡みついてくる純の舌の動きに合わせていた。


密室になった狭い車内に響き渡る甘いリップ音が、未来の頭を真っ白にしていく。


熱い唇を押し付けられた口でなんとか呼吸をしようとすると、未来の吐息が声になって漏れてしまっていた。



前回よりもずっと長い時間、重ねられていた唇が離れると、しばらく未来は声を出すことができなかった。


「拒否しなかったね」


ボーッとしたままの未来の下唇を、純は親指と人差し指で挟んだ。


「私…」


言いかけた未来の口を純は軽いフレンチキスで遮った。


「分かってる、ごめんね。今日はマジでなんにもしないつもりだったんだけど」


純は未来から身体を離して運転席に戻ると「って言っても信じてもらえないよね」と独り言のように言って、ぬるくなったコーヒーを飲み干した。


「今度こそ送ってくよ」


車のエンジンをかけると純は窓を開けた。夜の風は少し湿った匂いがした。