片づけを終えてビニール袋の中にある薬を取り出した。
「和花菜さ。お粥作ってくれる時から思ってたけど色々と用意周到だよな」
「あー、職業病というか。仕事がクライアントの要望を汲み取ってどれだけそれに応えられるか、なので。いくつか選択肢を用意しておくんです」
「1つの案だけじゃ断られた時困るってことか」
「はい。1つだけ提案してダメだったら新しい案を考えて、ってやってると効率が悪いので。予め用意しておくんです。その癖が出ちゃいました」
今回のお見舞いでは事前に成宮さんの苦手な食べ物も症状も分からなかったから、尚更考えてしまった。
「……ふーん。案外似てるのかもな。バーテンダーと和花菜の仕事って」
成宮さんは総合風邪薬を選び丁寧に箱を開けて、水で錠剤を流し込んだ。
上下する喉元が色っぽくて目のやり場に困る。
「バーテンダーも相手の真意を読んで会話するし、接客の仕方も変える。もし納得してもらえなかった場合は別のアプローチをする」
「成宮さんは毎日大勢の人を相手にしてるはずなのに、それぞれ好みや注文を覚えてるのが本当にすごいなって思います」
「気持ちよく時間を過ごしてもらうためなら、何だってする」
何だってする、その意味は。
完璧な”嘘”で相手を魅了し続けるってことだ。


