「こっちの豆腐と卵のやつも美味しい」

緩く口角が上がる。あ、笑ってくれた。

「お口に合ったなら何よりです。まだ残りがあるので、明日も温めて召し上がってくださいね」

完璧な悩殺スマイルでもなく、悪戯な微笑みでもない。

初めて見た成宮さんの新しい顔に、心臓の鼓動が早くなった。

「ちょっと片づけてきます」

「ごめん、助かる」

気づかれないようにと片づけを理由にして距離をとる。

合間にチラリ、と様子を窺うと手をとめることなくお粥を食べ進めてくれていて。

風邪を引いてるときでも食べる所作が綺麗なんだな。新しい発見だ。

こういう、お店では分からなかった成宮さんの姿を見られるのは嬉しいけど。

なんだかこうしてると不思議な気分になる。

成宮さんはいきつけのバーで働くバーテンダーで、私は客。

漠然とそれだけの関係が続くんだと思っていた。