全然あの時のことをまるでなかったみたいに普通に接してくれるし。

「それでこの雨の中資料を届けてくださったんですね。お忙しい中ありがとうございます」

私の前で恭しく床に膝をついて真っ直ぐ見つめ、お礼を言われる。

その姿は、どこか高貴な国の王子様がお姫様にするそれみたいで。

でも、私に対してこんなことをする必要は全くない。むしろ私が迷惑をかけている。

「成宮さん!やめてください、私もこのお店にはお世話になってるので。自分が張り切っちゃっただけですから」

「……本当に優しいんですね、和花菜さんは」

小さく呟かれた言葉に、顔が熱くなっていく。

「あんまり褒められると、その、調子に乗っちゃうので」

恥ずかしさを紛らわせるためにわしゃわしゃとタオルで髪を拭く。

「和花菜さん、そうやって雑に髪を拭いちゃダメですよ?傷んでしまいます」

「あ、えっと」