この空間の雰囲気を考えてシンプルなデザインにしておいてよかった。
ちらり、キッチンの方に視線を滑らせれば腕まくりをしてテキパキと料理を作ってくれている。
「何を作ってるんですか?」
「鶏肉とトマトのスープ。簡単に作れるしうまい」
「うわー想像しただけで美味しそう」
「もう少しで出来るから大人しく待ってなさい」
はーい、と返事をして、けれど手持ち無沙汰でテレビつけてもいいかな?と何の気なしに視線を下げたら。
「……グロス?」
ローテーブルの下についている浅い棚に、赤のグロスが置かれていた。
明らかに彼のものじゃない。
「お待たせ。って、テーブルがどうかした?」
「っいえ」
コトン、と目の前にスープが差し出される。
そのまま成宮さんは視線を下にさげて、ああそれかと呟いた。
「それ知り合いの忘れ物」
自分の頭に浮かんでる人物は知り合い、っていう程度じゃないはずだ。でもここは遠回しに言っておく。
「知り合いって、たとえば、亜里沙さんですか?」
「……そっか。ふたりともあのパーティーで会ってたっけ」
けどどうしてここで亜里沙さんの名前が出てくるのか、と首をかしげる。


