「…よし?」

コクリと頷いて、嬉しそうに微笑む。

「よし…ですか?」

「はい」

「ああ、これから『よし』と名前でお呼びしていいのですね?」

幸姫は、治憲に『姫』ではなく名前で呼んで欲しいと言っているのだ。

治憲は幸姫の気持ちが嬉しくなって、彼女の手を引いて抱き寄せた。

愛おしそうに髪を梳きながら、
「よし」
と呼びかけると、頬を桃色に染めた幸姫が
「はい」
と答える。


「じゃあ私は直丸とお呼びください」

直丸は治憲の通称である。

「な…お…?」

「そう、なおです。
2人きりの時は、そう呼びましょうね」

幸姫は自分と治憲の人形を並べると、
「なお」「よし」
と交互に指を指し、嬉しそうに笑った。

そして、
「なお、なお」
といかにも愛おしそうに治憲の頬を両手で挟んだ。

治憲はひょいっと幸姫を抱き上げると、自分の膝の上に乗せた。

あまりにも軽いその体は、とても成人女性のそれとは思えないけれど。

治憲は幸姫の体をキュッと抱きしめ、
「ああ、貴女は本当になんて可愛いのでしょう」
と囁いた。


この瞬間が、治憲にとって何より癒される時間なのだ。

夫婦の契りー。

肉の交わりなど、彼にとっては取るに足らないこと。

幸姫と彼は、心の深い深いところで繋がっているのだから。