恋人が旅に出た。一言、「世界を観てくる」と。

何処に、だとか、資金はあるの、だとか、私は誘わないのかよ、とか、エトセトラ。けれどもそういうの全ては野暮だと知っていたし、私は彼のどうしようもないのを愛している。

『満足するだけ好きなことをやればいいよ。ただ、手紙は定期的に書くように。それと、浮気したら世界中何処に居ようが草の根掻き分けてでも探し出してブチのめす。それじゃあ、気を付けて。』

彼は笑顔で何度も頷いた。『きみのそういうクソ重いところが世界で一番好きだよ』と添えて。
『お前これから世界を知りにいくんじゃないの。』とは言わなかった。私は空気を吸う以外に、読むことも知った女だったのだ。