「もう、こんな時期なんですね。」
「えぇ、本当に。」
「この時期はどこもかしこも混むでしょう。帰省ラッシュ、とかいうやつ。」
「座席争奪戦ですよ。このクソ暑い中で。」
「お互い頑張りましょう。」
「えぇ。宜しければお手伝いしますから、遠慮はなしでお願いします。」
「それは、まぁ...。ご親切にどうも。優しいんですね。」
「不安ですか。」
「え、」
「表情が固いですよ。まぁここに居るのには多い表情です。昔の僕みたいに。」
「...家を離れて、もう一年以上になりますけれど。戻るのは今日が初めてなんです。丁度一年経った時に、さすがに顔を見せなければと思ったんですけど。」
「えぇ、分かります。僕もそうでした。」
「...、忘れられてるんじゃないかと、思ってしまうんです。そんな筈ないって、私が一番分かっているのに。家を出た日に、喧嘩してしまって。」
「僕も親父と喧嘩をして、家を飛び出して、挙句諭そうとしてくれた友人に逆上して、殴って逃げたままですよ。」