『拝啓、ミケルさんへ。
あの人の最後は、どうでしたか。
黙っていてごめんなさい。もうずっと、彼に送ったメッセージに既読がつかないのを、知っています。恐らく彼が一方的にそうしているのだと考えて、貴方が彼の代わりに手紙を送ってくれるのに甘えていたのも、私の弱さでした。
彼が貴方にどこまでを語ったのかは分かりません。あの人のことだし、何も言わなかったのかも。彼は病気でした。心の病です。周りは彼を普通だと言いましたが、彼が夜、抱えきれない苦しさの中に沈んでいく姿を、私だけは知っています。
どれだけ私が彼を愛していても、どれだけ彼が私を愛してくれていても。
彼も、私も、あの夜だけは越えられなかった。
「世界を観てくる」と、嫌にご機嫌顔で言った彼に、私はただ、彼が穏やかにいけることだけを祈りました。世界の美しさが彼の糧になればと思ったし、未練を払ってくれればとも思いました。
手紙を寄越せと言ったのは、彼の心を知りたかったからです。言葉で語れないのでも、せめて文字から何か分かるのでは、と。結局彼は彼のままでしたが。
彼も私も身寄りがありませんでした。だから彼が世界の何処かで消えてしまったら、それが私達の終わりです。
貴方の実家の住所を彼に以前聞いておきました。突然ごめんなさい。貴方の優しさで、何とか私も夜を乗り越えられそうです。』
