どうやら、二人の"あの話し"とは
太田道灌にまつわる事のようだ。
若き日に、
鷹狩りに出かけた道灌であったが
急に雨に降られ、
村のあばら家により"簑(みの)"を
借りようと立ち寄った。
が、出て来た幼い娘は
無言で"山吹の花"を
道灌に差し出したのだ。
道灌は意味がわからず
「花が欲しいのではない」と怒って
その場を立ち去った。
後でその話しを、
家臣の者にしたところ
その娘は
「七重八重 花は咲けども山吹の
実の一つだになきぞ悲しき」
という古歌に寄せて、
簑ひとつさえ持てない
悲しさを託して
"山吹の花"を道灌に
差し出したのではないか…と。
道灌は、自分の無学さを恥じ
その後は歌道にも精進した。
………と、言うお話だ。
当然、信長はその話しを知っていた。
そして、それは織田信長自身にも
運命的に降りかかった歌でもあった。
『あははは♪
なるほど~♪
のぶがあの地に
こだわった理由がわかったよ~♪
~美濃 ひとつだに なきぞ悲しき~
こりゃ 小娘に言われちゃぁ
二重にイヤミだよねぇ~♪
そりゃ 取るしかないよねぇ 美濃♪』
九尾の狐は、
どこから取り出したのか
いつの間にか、
山吹の花枝をもっており
ソレをふりふり、信長をからかった。
彼は、信長がいつ激怒して
暴れだすかとハラハラしながら
見ていたが、
「……フン……あれは、
稲荷…お前の差し金か…」
なんだか合点がいったのか
ポツリと呟き
昔話しの思い出に浸るように…
桃をかじりながら
静かに遠くを見つめていた。
『ぎぎっ ぎぎっ』
「 ? どーした、トン?」
しばらく
シリウスの頭に避難していた
トンが戻ってきて
彼に、何かを訴えるように鳴く。
『ああ……そのコ、
"俺にも桃をよこせ"だって♪
いいなぁ♪僕も欲しいなぁ♪』
「えぇ……よこせったって……
そんなに無いでしょうよ…」
2匹にせがまれ
仕方なく、腰の小物入れを
探ってみた
が……
「………あった…?え?」
その小物入れは
どう見ても、せいぜい桃ひとつ
入るかどうかの大きさだ。
中を覗いて見たが、
何も入ってはいない。
だが、中を手で探ると
ポコポコと桃が出てくる。
「何だコレ?!四次元ポケットか?!
ひょっとしてレア装備…!!」
驚いている間に、
ひとつは、トンに丸飲みにされたが
まだまだ出てくる。
調子に乗った彼は
「シリウスさんもどーです?」
と、すすめると
『いえ、私は結構です。
と……言うよりも…
ソレ…あなたの霊力が
具現化した物ですから…
地上で"社"を持たぬあなたが
そんなに出し続けては
あなた……そのうち…
消滅いたしますよ?』
「……!!!! Σ(´□`;)」