「うぬは……"触らぬ神に祟りなし"
と、言う言葉を知らぬのか……」


その声は低く…渋く…
腹の底にまで響くような
恐怖を与えたが……
不思議な事に…
どこか、優しさのような物も感じられた。

彼は、驚き、
幻術が解けたかのように
我に帰る。

振り向くと、そこには……


西洋風の銀の甲冑…
ワインレッドのマント…
逆光で、顔はよく見えないが
その目だけは、
鷹の目のように鋭くギラリと
鈍く光る……髭の男…


「の、の、信長?!」

「………」

一瞬、呼び捨てにした事で
文字通り、目で人を殺すほどの
眼光でにらまれたが…


「……さま!!信長様!!」

と、瞬時に切り返し
その肝を潰すほどの鋭い視線を
彼は回避すると、

信長のその視線は
九尾の狐へと向けれた。


「…稲荷め…儂の手駒をたぶらかしおって…」


そう言うと、信長は
腕をつかんだまま、
"これは俺の物だ"と言わんばかりに
彼の体をグッと抱き寄せた。

「ひぇ???!」

想定外の信長の行動に
彼は、少女のような悲鳴をあげ
身をこわばらせた。

そういえば、彼の体は今、
女なのである。

『フフフ……ざんねん♪
美味しそうだったのになー

でも、のぶ?
そのコは、そもそも僕のモノだよ?

身を捧げる代わりに、
お揚げをいっぱい、
献上してくれてるからね♪』

九尾の狐は、イジワルそうに
信長を挑発した。


「むぅ……こやつは、
本能寺で儂の首を預けた……忍の者ぞ」


「?………えええぇぇ?!」


一番驚いたのは、彼本人である。

だが、"本能寺"と聞いて
何を根拠にかは、はっきりはしないが

なぜか、信長の自刃後
炎に包まれる寺の中、
信長の血が、床を伝い……
床下の隠し通路の場所を示した。

そして…
「光秀に儂の首を渡すな」
との遺言どおり…

信長の首を落とし…持って逃げた。

そんなイメージが、
彼の中にはあったのだ。


おそらくそれは…


魂に刻まれた

記憶なのであろう…