『おやおや
よほど気に入られた様ですね』

魔物はすっかり元気になり
彼の頭の上に住み着いた。
その姿を、
シリウスは微笑ましく思えたのだ。

小物と言えども、魔物の類いを
癒し、愛でる感覚など
大天使である自分には、
今まで考えもよらぬ事であった。

『(これが…慈悲深い……と
言うものなのでしょうか…

あの闇も……あるいは人にしか
払えぬ物なのかも知れませんね…)』

その魔物は、
小汚ない灰色ではあるが
もっふもふの毛で、まぁるいフォルム…

小さなコウモリのような羽と
目付きの悪い、大きな目がひとつ…

パンダのような、まぁるいしっぽ
そして、子豚のような小さな鼻…


「ふふふーん♪
よーーし、お前の名前はトンだ!」

完全に豚鼻から
名前はトンと名付けられた。

そうとは知らず
案外、魔物も
その名を気に入ったようで
返事をするかのように、

『ぎぎっ!』

と、鳴いた。

『フフフ…
ご自分の名前も
思い出せていないのに?』

シリウスは
クスクスと笑った。

飼っていたペットとの再会などは
幾度となく見てきたが、
頭の上に、ちょこんと魔物をのせている…
こんな奇妙なコンビは
悠久の時の中でも、はじめてであった。


『あ。
あと、あなた。
微量ながら、霊気…

吸われていますよ?』

「ぎゃ?!なにぃい!
離れろぉ!トン!!」

さっきまで、上機嫌であった彼は
手のひらを返したように
トンを両手で掴み
頭の上から、引き剥がそうとした。

が、トンの小さく鋭い爪は…

ガッチリ
彼の頭皮をとらえて
離さなかった…