「…なんで、抱きしめるの」
「抱きしめたくなったから。
好きな人を抱きしめたいと思うのって自然なことだと思うけどなあ」
「っ、」
言葉では明るく見せるくせに、抱きしめる力は不安なのか少し震えてギュッと抱きしめてくる。
ここで抱きしめ返すことなんかできない。
「帆乃先輩はさ……やっぱ俺より三崎先輩がいい?」
「なんで……?」
「……この前見たから」
「な、何を……?」
「……保健室でキスしてたところ」
保健室……キス。
この単語で思い当たる出来事は体育祭の日……。
依生くんから求められて、拒むことができなかった。
振りほどいてしまえばよかったのに、甘いねだるような誘惑に勝てっこなくて。
結局、その場の感情に流されて、唇を重ねた。
そんな出来事があったのに、依生くんとの距離は縮まるどころか前と変わらず接することはないまま。

