〝森場くんが最適だと判断した〟と聞くと、自信が湧いてくるから不思議だ。
(よし……頑張ろう!)
森場くんは少し私を買い被りな気もするけれど、〝一生懸命やってくれそう〟と期待されているのならば精一杯期待に応えよう。
そうやる気を出す一方で、ほんのちょっとだけ凹んでいたのも事実。
(〝恋愛対象としては一切見てない〟って、言われたようなものだよね……)
〝子どもの頃のことも知られてるから自然体でいられる〟って、つまりそういうこと。実際の恋愛対象のように自分をよく見せる必要がないから、自然体で仕事に集中できるということ。
まあ、わかってはいたんですけど。距離感の近い森場くんの態度に舞い上がってたのかもしれない。少し調子に乗っていたところを、崖から突き落とされて思い知らされた気分だった。
彼はそんな私の心情など知る由もなくて、悪びれることなく言う。
「あとさ、吉澤さん。結婚生活初日ってことで、今晩ご飯行こ」
「え、でも、ほんとに今日から森場くんの家に泊まるなら、一度服とか用意しに帰らなきゃ」
「もちろん、その後でいいから。……積もる話もあるし?」
ね、と言って――私が断れないことも知っているような顔が、とても憎らしいと思った。
その日は定時に仕事を切り上げてダッシュで自宅に戻った。
大学を卒業して社会人になるのと同時に住み始めたワンルームマンションは、会社から徒歩十五分の距離にある。広くはないけれど借りた当時は新築で、オートロックも付いていることからそこそこ気に入っている。
私はフローリングの床に、手持ちの鞄の中で最も大きいボストンバッグと衣類・化粧品類・最低限の生活雑貨を広げ、大慌てで外泊の準備をした。森場くんとは今から一時間後の七時半に約束をしている。とにかくボストンバッグの中に荷物を詰め入れながら、私は思った。
(……なにこの展開!?)


