【社内公認】疑似夫婦-私たち(今のところはまだ)やましくありません!-

 彼はペンを持った手を口元にあて、しばらく考えていた。

 私は一瞬だけ〝余計なこと言っちゃったかも〟と後悔した。個人的な願望で言うなら、森場くんが私を実験相手にふさわしいと思っていてくれるほうが都合がいい。

 だけどそれはあくまで〝私の願望〟だから。彼がこの実験で〝新製品をより良くしたい〟という確固たる目標を持っていると知っている。それなら、自分の願望よりも、客観的に見て適任かどうかを見極めたい。

 森場くんは悩んだ末にこう言った。

「俺は吉澤さんがいい」

「え?」

 私の頭にぽんと手を載せ、一点の曇りもない瞳で彼は言う。

「吉澤さんももう気付いてると思うけど、俺、仕事が第一優先なんだ」

「……知ってます、けど……」

 そうでなければ私と〝ターゲットになりきるために本物の夫婦として振る舞う〟なんて突拍子もない案は出てこないと思う。思考は正直行き過ぎてると思うけど、仕事に対して真摯なのは彼の美点だ。

「〝企画を成功させる〟ことへの執念に限っては誰にも負けないつもりだよ。失敗しそうだと思う策は採用しないし、今回だって一番適任だと思う人を選んだ」

「……森場くん」

 頭に載せられた手が、私の髪をくしゃくしゃと撫でる。頭の中のモヤモヤを吸い出すように撫でまわして、トドメに彼はニカッと八重歯を見せて笑った。

「子どもの頃のことも知られてるから自然体でいられるっていうか……吉澤さん以上にうまくいくイメージが湧く人、浮かばなくってさ。こんな突飛なことを一生懸命やってくれそうなのも吉澤さんしかいないと思う。だから心配する必要ナシ」

「そっか……」