ミーティング終了後、私と森場くんの二人で広告会社の営業さんと乙原さんを一階エントランスまでお見送りした後、プロジェクトルームに戻るエレベーターの中で彼に猛抗議した。

「誤解されるようなことは困ります……!」

「いや、ノリですって。乙原さんも本気で言ってないですよ」

 絶対にそんなことないと思う。乙原さんは去り際、ヒソヒソと私に「大丈夫ですよ、俺、得意先の秘密は守るので!」と耳打ちしてきた。その後は私がどれだけ否定しようとも、〝バレるのを恐れて否定しているだけ〟と見なされて弁解を聞いてもらえなかったのだ。

 森場くんはそれをわかってくれず、更にはこんなことを言ってくる始末。

「それとも吉澤さん、乙原さん狙いですか?」

「は……?」

「もしそうなら、俺とのことはちゃんと否定しておきますけど……」

 そう言いつつも不本意そうな顔を向けられ、私は答えに困った。

 乙原さん狙いも何も。初対面ですし。お仕事ですし。

「……そんな浮ついた気持ちでいると思われるのは、心外なんですが」

「ああ、ごめんなさい」

 そう言うと彼も失礼だと思ったのか、顔の前で手を振って発言を取り消していた。私はツンとしながら、さっきの打ち合わせで彼との距離にドキドキしてしまった自分を省みて内心シュンとした。「心外」と言いつつ、浮ついた気持ちがまったくなかったとは言えない自分が嫌だ……。

「……相手が乙原さんだったから、まだよかったですけど」

「え?」

「なんでもないです……」