湯川さんが〝仕方ないわねぇ〟と笑う気配を感じながら。

(ち…………近い!)

 乙原さんと森場くんの打ち合わせに投入されたと思ったら、森場くんに肩を抱き寄せられたせいで顔の近さがとんでもないことになっていた。しかし彼の気持ちは既に打ち合わせに移っているのでこの距離の異常な近さに気付いていない。少し視線を上げればすぐそこに彼の唇があって、彼が話すたびに私の前髪を揺らす吐息にドキドキした。

「店舗でもその場で軽く寝心地を試してもらうのは普通にやっているので、できればがっつり一晩眠る体験をしてほしくて……」

 真面目な話をしているのに……!

 乙原さんは私が戸惑っていることに気付いているようで、森場くんの話を聞く合間にちらちらと私のほうを見てくる。

(指摘して止めてくれたらいいのに……)

 乙原さんは途中でこの状況を〝面白い〟と思い始めたらしく、口元に手をやって考える素振りで笑いを隠していた。……この人! 見直してたのに、結構悪い人かもしれない!

「一晩眠るとなると単純なブースでは無理ですね」

「ですよね。でもただ〝高級なベッドで一晩眠ってみませんか〟っていうのも惹きが弱いし……」

 二人が煮詰まって会話が一時中断したところで、やっと、私は声をあげた。

「あのっ……!」

「ん? 吉澤さん、何か良い案あります?」

 なぜこの距離感で普通に会話ができる!