最後の案は完全にイメージ戦略に振り切ったアイデアだった。男女ともにバランスよく人気のある有名女優にプロモーターになってもらい、テレビCMだけでなく、出演するドラマや特集雑誌などにも一緒に製品を出してもらえるよう交渉するというもの。各メディアの判断もあるので確約は難しく、完全出来高制にはなるが、その女優の持つ〝優雅〟〝本格〟というイメージを製品に紐づかせるのは一番手っ取り早い戦略に見える。

 森場くんはこう切り込んだ。

「確かにインパクトはありますが…………それで実際にどれくらいの人が〝買いたい〟と思うでしょう?」

 角を立てないように気を配りつつ、ただし、懸案事項は正しく相手に伝わるように配慮された言葉選び。私は隣で息を殺してそれを聞いていた。

「お金を使えば派手なことはできます。ですが、今回の目的を考えた時に着地点が〝イメージアップ〟だけでは足りないと思います。認知アップとイメージアップは勿論ですが、もう一つはなるべく多くの人に製品と触れ合って良さを実感してもらうことです。高価格帯商品は買う側も慎重になります。イメージだけでは売れない」

 彼の言葉は裏を返せば、それだけ製品に自信があるということだ。〝触れてもらえさえすれば「欲しい」と思ってもらえるから、そこまでの導線を頼む〟と。その場にいた他の面々も同意見だったのか反対意見は出ない。少しピリッとした空気に、私はドキドキしていた。