わけがわからなくて首を傾げた瞬間。
「あー、どこかで見たことあると思ったら! あの時の子だよね?」
それまで黙ったまま小鳥遊君の隣にいた女の子が、大きな声を上げた。
小鳥遊君に掴まれている腕とは逆の私の手を握って、キラキラした目で私を見つめる女の子。
その顔はとてもかわいくて、女の私でもドキドキする。
「私のこと覚えてないかな?」
「え?」
必死に記憶を辿ってみても、見覚えはなかった。
こんなにかわいい女の子に会ったら絶対に忘れないはず。
「咲姫、おまえ空気読めよ。俺が話してんだろーが」
「うるさいなぁ、私の一大事でもあるんだから黙っててよ!」
「一大事って、おまえ。せっかく俺が勇気を出して……」
「あーもう、うっさい。男がグチグチ言うのは、カッコ悪いんだからね」
「なっ……」
一瞬で小鳥遊君を黙らせる女の子。
か弱そうに見えて、意外とズバズバ言うんだ。
それにすごく負けん気が強くて、しっかりしている。
「一年以上も前のことなんだけど、高校の入試の日に電車の中で私が痴漢に遭ってたら、助けてくれたよね? あの時は人混みだったし、急いでたこともあってゆっくりお礼が言えなかったけど、あなたの顔は忘れたことなかったよ」
「え?」
痴漢に遭っていたところを助けた覚えはある。
でも入試の日は緊張していたこともあって、女の子の顔をはっきり覚えていなかった。
そっか、あの時の子だったんだ。
こんなにかわいい子だったなんて、もっとちゃんと見ていればよかった。
「あの時はありがとう。あなたが助けてくれなかったら、私きっと入試もボロボロだったと思う。あれから怖くて電車には乗れなくなっちゃったんだけど、高校には無 事に合格しましたー!」
「え? あ、そうなの? それはよかった」
「これからも仲良くしてもらえると嬉しいな。きっと、長い付き合いになると思うし。 私のことは咲姫って呼んでね。ってことで、邪魔者はさっさと退散しまーす! 涼平、 うまくやれよ!」
え?
なんだかいろいろとわけがわからない。
聞き返す間もなく、咲姫ちゃんは足速にバス乗り場のほうへ行ってしまった。



