いつものように無意識に電車を乗り継ぎ学校へ向かう。

昇降口の前には生徒が群がっていた。
新学期、クラス替えの季節だ。新しい人間関係、正直面倒臭い。

帰りの学活が終わると教室から一気に人がいなくなった。
残っているのは七、八人といったところだ。

「七月、みどり先生が図書室来いって」

帰ろうとすると、おそらく同じクラスであろう男子が声をかけてきた。

「わかった、教えてくれてありがとう」

いつも通りにっこりと笑い返してお礼を言う。
教室を出ると一気に疲れが押し寄せてきた。
久しぶりの学校で無意識に気を張っていたのだろう。

誰もいない廊下に夕日が差し込み宙を舞う埃が輝いて見えた。

図書室はとても静かだった。
耳をすませていれば本たちの呼吸が聞こえてきそうだ。
綺麗に並べられた本たちは、その中に隠された物語が誰かを包む瞬間を待っている。その素敵な世界が誰かに知ってもらえるように。

でもお兄ちゃんの世界には勝てない。ふとそんな暗い考えがよぎった。

「ここにいる本たちは比べられない素敵な世界を持っているの。全部が違う物語を秘めているのよ」

まるで心を読んだかのように優しい声が響いた。

「っ…先生…」

「驚いた?あなた今とっても暗い顔をしていたわ。苦しい時は本を読むに限るわよ」

みどり先生は悪戯が成功した時の子供みたいに笑った。

「本はいつも素晴らしい景色を見せてくれるわ!…それで七月さんはどうしてここへ?」

「えっ、先生が呼んでるって聞いて…違いましたか?」

「えぇ…今日は私も帰ろうかと思っていたところよ。でもせっかくだし…少し手伝ってもらえる?」

みどり先生は首を傾げて小さく微笑んだ。