目線はやっぱりわたしに向けられていた。



酸素を思いっきり吸い込み、言葉と同時に吐き出した。


『お疲れさまでした。』

こんな言葉だけど今のこの空気ではかなり吐き出すのに勇気がいる。


孝浩くんはタバコを灰皿の中にそのまま投げ入れ、わたしを無視して歩いて行った。

わたしは何も言わず、そして追いかけることすらしなかった。

出来なかった。

動けなかった。


いないものとして見られていたとしか思えなくて。


それでも・・・今日は頑張るって決めた。


わたしは昨日殴られた左とは逆の右を思いっきり自分で平手で打った。

パンッ!!


その瞬間つい声が出てしまった。

『いったぁ・・・。』


今の音に驚いたのか、孝浩くんが振り向いた。


わたしは右の頬をさすりながら

『待ってよ。話すって言ったじゃん。』


強い口調で言った。



孝浩くんは小さくため息をついてこっちに歩み寄りながら


『何してるの??これ以上に傷モノになりたいわけ??』


と呆れるように言ってわたしの前で立ち止まり、右手でわたしのアゴをクイッと上げた。


顔をジロジロと見られていた。

顔・・その中でもケガしている口元を。


『気合い入れたんだよ。』


『で、この傷はなに??』


手を離し、目の前で冷たい視線をわたしに見下ろしながら孝浩くんは言った。