しばらく罵声が続いた後、一人の先輩が顔を歪めながら言った。

「ねえ、いいこと思いついた!体で教えないとわからないんじゃない?」

その刹那、紅葉は先輩たちに羽交い締めにされ、身動きが取れなくなる。

「や、やめてください!」

紅葉が懇願するが、先輩たちは「お仕置きよ!」と言って紅葉を殴ったり蹴ったりし始めた。

紅葉の悲鳴や殴られる音が、前の耳に心に嫌でも伝わる。助けないと、と前は思うが体は動かない。

前は前に進めず、暴行を受けている紅葉に背を向けて走り去った。



前の胸の中にあるのは、後悔一色だ。

家に帰った後、部屋で一人でずっと前は泣き続けた。

守られてばかりなのに、守ることができなかった。何も言うこともできずに、立ち去ることしかできなかった。

「……ごめんね、紅葉ちゃん……」

殴られる痛みは、きっと想像を超えるものだろう。相手は空手部の先輩なのだ。

こんな弱い自分なんて、この世界に必要なのか…。

前の心の問いに、答えてくれる人は誰もいない。