恐る恐る前が様子を伺うと、紅葉が先輩に囲まれながら何やら怒られていた。

紅葉はとても怯えた表情だ。紅葉の怯えた表情など、前は今まで見たことがない。遊園地のお化け屋敷に入っても、ホラー映画を見ても、怯えるのはいつも前だ。紅葉は「作り物だよ〜」と余裕の笑みを浮かべていた。

そんな紅葉が、今怖がっている。前の心臓がドクドクと早まっていく。心臓が止まってしまうのではないかと前は思った。

「空手部主将、女子の憧れの的の山田くんから告白されたんですって!?恋愛には興味ないとか言ったくせに!嘘つき!!」

先輩の一人が紅葉の胸ぐらを掴む。

「ち、違います!!一方的に告白されただけですし、きちんと断りました!」

紅葉はそう言うが、先輩たちの怒りは収まるどころか膨らんでいくばかりだ。

「あんたが山田くんにアプローチしたんでしょ!」

「あんたのせいで私フラれたんだけど!」

「このクズ女!!」

罵声を浴びせられ、紅葉は固まっている。前もどうすればいいのかわからず、ただ見ていた。