音楽室から、吹奏楽部の練習する楽器の音が響いている。前が歩く廊下では、新聞部や家庭部の生徒が忙しそうに行ったり来たりを繰り返している。運動場では、サッカー部や野球部がユニフォームを泥だらけにしながら練習していた。

「……武道場に寄って行こうかな」

紅葉の様子を少し見て帰ろうと、前は武道場に向かって歩き始める。武道場には前をいじめる男子たちもいるが、前の頭の中は紅葉のことだけだった。

武道場の前まで来ると、どうやら休憩中らしい。水筒を空手部の部員は一生懸命傾けている。紅葉の練習しているところを見られず、前は少し悔しさを感じた。

その時、何やら緊張したような顔の紅葉が武道場から出て来た。周りには、空手部の女子の先輩。先輩たちに囲まれながら、紅葉は武道場の裏へと連れて行かれる。

ドクン、と前の心臓が嫌な音を立てる。前も武道場の裏へとバレないように向かった。

「……あんたさ、どういうつもり？舐めてんの？」

前の耳に先輩の怒った声が入る。