「不遇はナイフのようなものだ。ナイフの刃をつかむと手を切るが、把手をつかめば役に立つ」

「幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ」

「最初の一歩を踏み出しなさい。階段全体を見る必要はない。ただ、最初の一段を登りなさい」

夕焼けの照らす中、前は武道場の前でその時を待ち続けた。もちろん、紅葉や誰にもバレないように隠れている。

空手部の練習する声や音が、まるで一つの音楽のように前の胸を掴む。

「……きっと、できる!ヒーローになれる!」

前はぎゅっと拳を握りしめた。決して強くはない。しかし、傍観者でいるのはもう嫌だ。

休憩の時間になると、紅葉の表情がまた暗くなる。紅葉はまた先輩に裏へと連れて行かれた。

前はためらうことなく後を追う。怖いのは、最初だけ!

「あんたさ、山田くんにデートに誘われてたよね〜?何様のつもり?」

「ち、違います!あれは一緒に空手の大会を見に行かないかって話です!!他にも何人か誘うつもりで……」