高校二年の奥本前(おくもとぜん)。彼はみんなから「お姫様」と呼ばれている。それには、大きな理由があった。

前が廊下を歩いていると、前方からがたいのいい男子三人が歩いてくる。柔道部に入っているいじめっ子だ。彼らは前を見ると、ニヤリと笑った。

前にわざとぶつかり、持っていた本を奪う。前は床に尻もちをついてしまった。

「悪りぃ悪りぃ。お前、チビだから視界に入らなくてよぉ〜」

男子たちはニヤニヤ笑いながら言う。前はゆっくり立ち上がると、「本返して」と男子に言った。

「嫌だし!返してほしかったら、その場に土下座しろよ」

「ていうか、お前「ロミオとジュリエット」なんて読んでんのかよ」

男子が前から奪った本のタイトルを見て笑う。前は少し怯えた目をしながら、「読んでちゃ悪い?」と訊く。

「おおロミオ!あなたはどうしてロミオなの〜?」

男子の一人が、あの有名な台詞を小馬鹿にしながら言う。廊下に男子三人の下品な笑い声が響いた。