自分より大切なもの




椿 
「えーーと、何だっけ……保険証?どこにやったっけなー。」






   ガサガサっ………ゴトっ…。






 積み重なった本や雑誌の間から、何かが滑り落ちた。




椿 
「ん?……なんだこれ。」




 椿は裏返しになった写真立てをひっくり返した。そこには……




椿 
「……お母さん。」




 そこに写っていたのは、無邪気に笑う椿と、そして優しく微笑む母親の姿だった。





   コトっ。





 椿はしばらくの間写真をじっと見つめていた。ふと我に返ると、何も言わずに写真立てを机の上に置き、そして写真を伏せた。まるで、母親との思い出を胸の奥底にしまうように……。





   [ 着信音 ]





椿 
「……はい。」



佐古
「着いたぞー。」



椿 
「……すぐに行きます。」




 電話を切った椿は保険証を鞄の内ポケットにしまうと、一度伏せた写真立てを見つめて部屋を出た。