自分より大切なもの





椿 
「いった………。」




 俯いていた椿がやっと顔を上げると、その額からは一筋、血がながれていた………。




愛 
「え……?血……?」




 額から流れる椿の血を見たメグミは、この時初めて自分のした事に罪悪感を覚えた。丁度その時、少し遅れて来た夏樹が廊下の角を曲り、教室の前に二人が居ることに気が付いた。




夏樹
「おっ!メグと椿~!おっは~!」




 未だに状況をよくつかめていない夏樹は、いつものハイテンションで二人に話し掛ける。




夏樹
「二人でなに話してんの~?」




 小走りで近づいてきた夏樹が、ようやく椿の異変に気付く。




夏樹
「きゃっ……!つ、椿それ……血?!」




 椿もメグミもしばらく黙っていると、夏樹は何かを察したようにメグミに尋ねた。




夏樹
「メグがやったの……?」



愛 
「あ………あたし、知らない!!」




 メグミは一目散にその場を走り去る。




夏樹
「メグー?!何?どうなってんの?椿……あんた大丈夫?!何があったの?と、とりあえず保健室……あ、ダメだ。今冬休み中だから保健の先生いないじゃん!えーっと……あたし、佐古先生呼んでくる!」



椿 
「私は平気だよ。」



夏樹
「はぁ?!平気なワケないじゃん!あんたその血、みてみなよ!」



椿
「……ホントに、大丈夫だって。」





・・・マジで、こいつの声、頭に響く……うるさい……。





夏樹
「今すぐ呼んでくるから、椿は教室でイスに座って待ってて!」



椿 
「……ハイ。」




 意外にも冷静に動いている夏樹を、椿は見直した。誰も居なくなった廊下に散らばったガラスの破片と、今の自分の心を……重ね合わせた。






・・・あぁーーー、やっぱ無理……。