touch.2  鎖の中で私はもがく

「しずく?」

声のする方へ顔を引きずる。

私の名前を間違えずに呼んだ?

視界がだんだん暗闇にのまれていく。

(あぁ、もうだめだなぁ。)

なんて諦めた私はあっさりと瞼を閉じた。

真っ白な天井。

すっと視界がひらける。

ピッ…ピッ…と規則正しい音が鳴り響く。

あれは…誰だった?

「ねぇ…。君は、、、誰?」

「拓真さんっ?!今すぐ先生を呼んで来ますから!くれぐれも
安静にしてて下さい!」

熱を持った痛みを感じて視線を流すと、痩せた腕に十数本の管が痛々しく刺さっていた。

鎖のように絡みついた名前も分からない点滴の管が、
私をどこに行かせてくれると言うのだろう。

鳩時計が3時を告げる昼さがり、真四角な窓から外を眺める。

その日の天気は、憂鬱な私に相反するように真っ青な快晴だった。

私はここを出て、どこに行けるというのだろう。

たった一人で、何ができると言うのだろうか。

(私は、生きてどうする?)

そんな情けない思考を遮るようにガシャンッと引き戸の扉が開かれた。

「しずくっ?!?!」

透きとおる白い肌の彼は私の幼馴染の西夜だ。
                せいや
体が弱い彼は、いつも病院で検査ばかり。

ホントは走れるような体ではない西夜が汗ばんでいることから、余程私を大切に思っているんだなと実感する。

西夜は、妹が亡くなってからというもの人の命に敏感になり
時々見ていられなくなるほど、私を気遣うのだ。

現実は残酷だ。

西夜から全てを奪ってしまった。

不安や恐怖に支配された漆黒の瞳で私を見つめて逃さない。

どこへも行かないでと、すがるように私を抱きしめる。

「ごめん、俺が…俺が守れなくて…ごめんなぁ。」

西夜は、小刻みに体を震わせ泣きながら私に謝り続ける。

あぁ…私は生きなきゃいけない。

私がいなくなれば今度こそ西夜は壊れてしまう。

私は、そっと西夜の背中に腕を伸ばした。

なだめるように…あやすようにそっと撫でる。

私は、あふれる涙をこらえ西夜の肩に顎をのせると
目を瞑る。

私は、どこへも行かないんじゃない。

どこへも"行けないんだ"。