俺はさっき来た道を通らず北の住宅街を通ることにした。

 住宅街を抜けると、そのまま校門に行くことが出来る。

  
 朝の犬の散歩の老人がいた。

 小学生が集団登校のために集まっていた。

 幼稚園の送迎待ちのお母さんたちが井戸端会議をしていた。

 雨は少しきつくなってきた。

 靴下とスニーカーを借りてきた。

 足の裏がヒリヒリして、もう裸足では走ることができなかった。

 この住宅街を抜けると、ほぼ正面に学校の校門が見える。

 俺は少し走るスピードを上げた。

 時間が分からなかった。

 更にスピードを上げた。


 「おはよー」

 「おはよー」

 「おはよー」

 俺は道行く見知らぬ人々に声をかけた。

 俺は透明人間から脱皮するために声を出した。

 人々は、空耳かとキョロキョロする。

 反射的に「おはよーございます」と返事する人もいる。
 
 今の俺の状況は、透明人間に靴下とスニーカーをはいている。

 犬を散歩していた男性女性は、油断をしていたのか、するするとリードをはなしてしまい、犬が追いかけてくる。
 
 犬は見えているのか。はたまた、臭いで感じているのか。または、スニーカーと靴下に警戒しているのか。

 数匹の犬が追いかけてくる。

 そのあとを飼い主が追いかけてくる。

 犬には見えているのかな。それとも俺は、人として犬たちが認めてくれ始めたのかな。




 透明になる前は、犬も鳥すらも、俺に反応せず、横を通っても吠えも逃げもしなかった。まるで俺が存在しないかのように。

 だが今は犬が追いかけてくる!!



 よし、俺は、存在し始めた!!

 俺は、更に走るスピードを上げた。  
 時間が気になっていた。

 雨が強くなってきた。雨で透明な俺の輪郭が型どられつつある。

 犬たちが俺を追い越し、振り向き、ワンワン吠えた。

 すでに俺と犬たちは、同志に思えた。俺は引っ込み思案ではない、俺は透明人間なんかじゃないと思えてきた。

 前方に信号機が見えた。

 手前の下り坂を下りると二車線の道路がある。

 そのままその横断歩道を渡ると学校の校門につながる。

 もっといえば、信号機の上あたりが俺の教室だ。

 3階にある俺の教室の窓は開いていない。

 ということは、まだ授業が始まる2分以上前である。

 なぜなら、閉所恐怖症密室恐怖症の榊原は、先生が来るのを待ち、きっかり始業2分前に先生と教室に入り、すべての窓を開ける。

 「あっ!!」

 俺は、思わず声を上げた。一つ目の窓が開いた!!

榊原が窓から顔を少し出して、キョロキョロしてから深呼吸をした。

 俺は全速力で、信号機手前の下り坂をかけ下りた!!