せっかくの誕生日だ。

ホテルも一流を用意した。

親の名前を使えば、大して悩むことなく取れてしまう。

外観を、下から見上げた咲の顔は

心なし強ばっている。

「行くぞ。」

肩を抱いてエスコートすると

覚悟を決めたのかすんなり着いてきた。

ロビーに待たせ、一人手続きをする。

こういうホテルは初めてなのか、落ち着きなくキョロキョロしている。

カードキーを預かりエレベーターに進むと

分かりやすい緊張に、笑がもれる。

部屋のドアを開け

「お嬢さん、どうぞ。」と、いつになく丁寧に声をかけてやると

緊張の我慢が、限界にきたのか…………

「…………………………圭ちゃ~ん。」と

とうとう泣きが入った。

ブッ!

「ほらっ、入るぞ。」

いつもの笑顔を浮かべて、手を引いてやると

少し安心したのか、やっと入る。

「先にご飯食べるから、荷物を置け。」

「ねぇ、圭ちゃん。
ご飯って………ここのレストランだったりする?」

不安そうに尋ねる咲は

美味しい物を食べる楽しみよりも

このホテルに気後れしているようだ。

「そのつもりだったけど……嫌か?」

今日はバースデーだし、美味しい物をと思ったが………

「嫌っていうか…………
こういう所で食べた事がないから、緊張する。」