「それじゃあ、自己紹介も済んだ事だし貴方のお部屋へ案内して貰おうかしら。」

ザワザワとさざめく辺りを見渡し、リーゼはロニィに尋ねた。


“リーゼ、今夜は随分いい客がついたじゃないか。”

“あ~あ、アタシも別嬪さんに生まれたかったねぇ。”

“色男のお兄さん、その子のパトロンは嫉妬深い男だからね。明日からは背中に気をつけた方がいいよ~。”

むせ返るような煙草の煙と香水の香り、女達の品定めに余念のない男達の血走った視線…。
それらが甘美な音楽にのり、渦のように二人を包んだ。
娼婦仲間の野次に、リーゼは表情を固くして、棒のように立ちつくした。


「行こう…。」

ロニィは彼女の手を取り、階段を駆け足で登った。


「ったく…嫌な奴らだ。」

ロニィは苦々しく呟くと、二階のラウンジにある長椅子に腰を下ろした。


「本当は、私も含めてああいう連中は好きじゃないのでしょう?」

「…。」

「それなのに、何故私を買ったの?」

「でも…。相手が君で良かった。」

ロニィは、リーゼの問いに答えると寂しそうな笑みを浮かべた。

「アタシを抱くことに…何か訳があるのね?」

「ああ。悪いが君を利用させて貰う…。」

「それは構わないけど…なんだか辛そうね。」

「そんな事は…ない。」

「嘘。」

知的な黒い瞳をロニィに真っ直ぐ向けたまま、リーゼは凛と背を伸ばし彼の隣に腰掛けている。
その姿は、娼婦のものではなく貴族の娘のようだった。