「一年の殆どが冬だと言ったって…この天候は辛いな。」

「うん…。」

気晴らしにもならぬ短い会話を交わしながら、二人は市街を抜け街道を進んだ。
そこもあちこちに吹き溜まりができ、僅かに馬車の車輪の轍が細い跡を残すのみだった。

「とりあえず、轍のとこでも歩いていく?」

「そうだな。あ…エドガー、轍は滑りやすい…気をつけろ。」

「うん!」

雪まみれになりながら、まるで子犬の様に元気よく前を駆けていくエドガーを、ロニィは穏やかな眼差しで見つめていた。
スカイヤード家の屋敷を出るまでは、あんなに気持ちが滅入っていたと言うのに…。


(エドガー、お前は本当におかしな奴だな…。)

エドガー・スカイヤード。
魔女の呪いによって昼間は9歳の少年…夜は19歳の乙女に変化する厄介な奴。
だが、この呪いも第三の課題をクリアした暁には解けるはずだ…。


(晴れて彼女の願いが叶った時には、元の姿に戻れる。だが…俺の目の前にいる9歳の少年は消滅する。)

数メートル先で、こちらを振り返り無邪気な笑顔で手を振るエドガーを見つめ、ロニィの心中は複雑だった。


(昼間のあいつがとんでもねぇクソガキだったら…こんな思いをしなくてすんだのにな。)

もうすぐ訪れる、避けることの出来ぬ別れに彼の胸は切なく痛んだ。