悲痛な皇后の叫び声に、レオルドは一瞬、たじろいだが再び言葉を続けた。

「若き国王は、自らの手は汚さず最小限の生贄で新たな改革を行おうとしているのさ…俺はそういう男なんだよ…母さん。」

「愚かな…貴方はこのことで我が国の歴史に愚王として名を残す事になるのですよ。」

「母上、例え愚王と呼ばれようと…俺は貴女の息子であることを誇りに生きてゆける。貴女だって…俺の事をそう思って下さるでしょう?」

「レオルド…。」

王妃の顔に、深い悲しみの色が浮かんだ。


「さぁ、もう帰ってくれ。俺は忙しいんだ。」


レオルドは、冷徹な一言を彼女に浴びせるとパチンと指を鳴らした。


バンッ

執務室の扉が、薄暗い闇に向かって開け放たれた。
皇后は、そちらにチラと視線を走らせると、こみ上げる嗚咽を抑える様に、口元を両手で覆い儚げな靴音を残し、廊下を走り去った。

「目的の為なら友も欺く非情な国王…嘘つけ!俺はそんなに強い人間じゃない。ソフィー、最後まで俺を見守ってくれ。俺が王としての責任を果たせるように…。」

レオルドは、机の上の薔薇に話しかけると、疲れきった表情で革張りの椅子に身を預けた。


(課題を出すのは、もう少し先にしよう…。少しでも奴らが共に時を過ごせる様に。)

レオルドは、静かに瞳を閉じた。
その瞼の端から熱い涙が一筋、彼の青白い頬を伝い流れ落ちた。