「だっ、だからぁ…何もそこまでしなくていいって言ってるだろ~!」

「何でさっ、どうせ昼間は男の子の姿なんだし…恥ずかしがる事ないじゃないかっ!」

「そこだっ、そこがお前の致命的な欠点なんだよ!女の自覚がまるで無いんだよ!」


包帯をグルグル巻きつけた両手を持ち上げたまま、足早に廊下を歩きながら、俺はエドガーを怒鳴りつけていた。

「酷いやっ、ロニィこそ許嫁の自覚がこれっぽっちもないじゃない!」

「うるせー!とにかくトイレぐらい一人でさせろ!お前に手伝われなくても用くらいたせるんだっ!」


「…じゃあさ、お風呂は?ねぇねぇ、お風呂ぐらい一緒に入ってもいいでしょ?ねぇ~っ、いいでしょ?」

「風呂だぁ?ふん、そんなに一緒に入りたいなら、夜にでも来るんだなっ!」


俺は、クルリと振り向くと、エドガーの鼻先を包帯だらけの指で弾くと自室のドアを乱暴に閉めた。

必要以上にイライラしている自分が情けなくて、俺はうんざりとした表情で、ベッドに腰を下ろすと無造作に両手の包帯を解いた。


(傷はもうすっかり治っているんだ…。ただ、今は魔法を使いたくない。魔法を使えば、レオルドの奴がすぐに三つ目の課題を押し付けに来るに違いないんだ…。)

両手を膝の上で組み、そこに額をあてがい、俺は目を閉じた。
瞼の裏に、“漆黒の森”で真実の鏡に映った光景が浮かぶ。


(いにしえの掟だかなんだかしらないが…俺はお前の思い通りには絶対にならねぇ。)