最初で最後の逢瀬の翌朝、俺は今起きている事の重さに耐えられずソフィーに別れを告げぬまま、別荘を後にした。
しかし…それが彼女との今生の別れになるとは、あの時は思いもしなかった。


ソフィーは、別荘からの帰り道、大通りを横断中に荷馬車の下敷きになって命を落とした。

あまりにあっけないソフィーの人生の終焉。
学校の仲間は、カップリングを拒んだ彼女が自ら死を選んだのだと噂した。


(そいつは違う!彼女を殺したのは俺だ!)

ソフィーの事を思うと、俺の胸は後悔と悲しみに引き裂かれ、どす黒い血を吹き出した。


俺はソフィーの膝枕に頭を預け、青い空を睨みつけたまま、心の隅に封印していた苦い記憶を全て思い出した。
ソフィーは、そんな俺の額に落ちる髪を指先で整えながら、静かに俺の顔を見つめている。


「…今…何を…考えている?」

俺は、恐る恐る彼女に尋ねた。

「…何も…こうして再び貴方に会えた事が嬉しいそれだけよ。」
「あの時、お前を一人残して帰った俺を…憎くはないのか?許せないと思わないのか?」

俺は、今まで抱いてきた自責の念を吐き出すように尋ねた。

「そうね…。確かにあの時、置いてけぼりを喰らった私は貴方を恨めしく思ったわ。でも…その後気づいたの。あれは貴方の優しさだったと。」

「ソフィー、それは違う!」

「いいえ。そうなのよ。状況がどうであれ…愛する人と結ばれて私は幸せだったわ。それに、あの事故は貴方の事とは無関係。だから、貴方は自分を責めては駄目。」

ソフィーはそう言うと日溜まりの様な笑顔を浮かべた。

「ソフィー…。」

俺は静かに身を起こすと、再び彼女を抱きしめ甘い果実の様な唇に、キスの雨を降らせた。