帰り道…ソフィーは泣いた。

「…レオルド…貴方に話さなくてはならない事があるの…。」

涙で塗れた瞳をパッチリと開き、ソフィーは俺の顔を見つめた。


(…遂に、恐れていた日が来たか…。)

彼女が話そうとしている事…それが何であるのか、俺には予測がついていた。


「父が…カップリングの話を持ってきたの…相手はグランディス家。お互いにとって申し分ない組み合わせよ…。」

グランディス家は我が国きっての名家だ。
家長のジークフリートは前国王の俺の父も一目置く騎士だった。

「そうか…お前の方が俺より生まれ月が早かったんだよな…。」

俺は声の震えをソフィーに悟られまいと、必死に平静を装った。

カップリング…北国(ほっこく)に伝わる古き伝統。
そいつは魔術師の家と騎士の家の間で長きに渡って守り伝えられていた。

裏を返せば…俺達のような魔術を扱う者同士の婚姻は決してあり得ないと言うことなのだ。

「…どうして…心から愛し合っているのに、一生沿い遂げることができないの?古き伝統なんて…無くなってしまえばいい!」

ソフィーは、俺の胸の中で激しく泣きじゃくった。

「ソフィー…今の俺には国政を変える力がない。許してくれ…。だが…俺はお前を失いたくない。」

俺はソフィーを抱きしめ、震える頭をそっと撫でた。


(これから俺がする事は、将来この国を背負う者には相応しい行為ではない。だが…。)

俺は、ソフィーを抱き上げ辻馬車を拾うと郊外の別荘へ行くように告げた。