サヤサヤサヤ…。

木々の葉の、小さな囁き声が波紋の様に広がる。
足元を風が走り抜け、下草がまるで水のように流れる。


レオルドは、草原に立ち尽くしていた。


(ここは何処だ?…そうか…俺はまんまとロニィの術にはまっちまったのか…。)

「クソっ、俺としたことが!」

彼は吐き捨てるようにそう呟くと、辺りをグルリと見渡した。


(この景色は…見覚えがあるような気がするが…。)

再び遠くへ視線を巡らす。
その先には白亜の教会…鐘楼に吊された金色の鐘が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

「レオルド?貴方…レオルドね?」

突然、背後から声をかけられ、彼はギクリと身体を強ばらせたが、その鈴を転がすような美声には覚えがあった。

「…ソフィー…。」

彼は、振り返ると声の主を見つめた。
彼の視線の先には、薄いグレーの長い髪を風になびかせ、白い絹のドレスを着た可憐な乙女が立っていた。
少し頬を赤く染め、レオルドを見つめる彼女の黒い瞳は、溢れ出る愛情でキラキラと輝いていた。


(あぁ…そんな馬鹿な…これは現実ではないと言うのに…。何故、俺の心はこんなに熱くなるのだ?)

レオルドは、草を蹴りソフィーに駆け寄ると、その身体をしっかりと抱きしめた。
両腕に力が入る度に漏れる甘い吐息…己の胸に感じる柔らかな温もり。
それは、一年前に死神に魅入られ、突然冥界へ連れ去られた、愛しい恋人のものだった。

二人は、会えなかった時間を埋めるかのように抱き合い、何度も口づけを交わした。