父が交通事故で死んで3年後、
おれは父の会社を継いだ。
父が死んでからおれが継ぐまでの間は、
母がなんとかやりくりしていた。

母が言うには、
あとは金勘定さえしてればいいって状態で、
おれに引き継いだらしいんだけど、
それすらも、おれにはうまくできなかった。

事務所に3人いる事務員が、
いつもおれの陰口を言った。

おれは事務所でいつも一人、
何もせず、何もできずに夜を迎えた。

夜の事務所は寂しかった。
そこにいることがつらかった。

会社の専務だった叔父は、
そんなおれをいつも責めた。

おれもそんな仕事が、
そんなおれが嫌いだった。

ある日、事務員の陰口が
いつもよりもずっとひどい日、
おれは叔父に社長を代わった。

「もう少しがんばれよ。君の父さんだって、
きっと君に継いで欲しいと思っていたさ」

そうおれを励ます叔父の顔は、
その心とは裏腹に……。

でも、その取引は、
おれにとってもいい取引だった。
おれは社長の肩書きは無くしたものの、
役員となって名前は残り、
役員報酬の40万は、
何もしなくても毎月おれの口座に振り込まれた。

おれはその取引に満足していた。
でも、母はそうではなかった。

そりゃあそうかもしれないな。
おれに継がせるために、たった3年だけど、
あんなにがんばっていたもんな。

絶縁された。

のかどうかはわからないけれど、
帰ってくるなと言われ、
家を追い出された。

これで分かるよね。
おれの嘘はただひとつ、
今は社長じゃないってことだけなんだ。
まあ、今は事務所に行ってないってこともだけど、
それも社長じゃないって嘘に含まれるよね。
つまり、たった一つのあいつについた嘘だったんだ。