あいつは図書館に、
夢の図書館に来れないと言った。
それは正しくないからだと。
おれには意味が分からない。
でも、多分、推測するに、
あいつは結婚しているから、
男の家になんて行ってはいけない。
そう考えているのだろうと思う。
でも、でもな、それは違うんじゃねぇか?
おれはその言葉を飲み込む。
だって、ここで叫んでも、
もう誰にも届かないから。
おれはまた本を読み始める。
週に一度、本を買いに行く。
この図書館をもっと充実させるために。
あいつが来たときに、
あいつにもっと喜んでもらうために。
おれは今日も1P、1P本をめくる。
おれの親父は、きっと叔父が言うように、
おれに会社を遺したかったのだろう。
でも、突然の交通事故で、
なにもそのための準備はできなかった。
人は死んで何を遺すことができるのだろう。
おれはこの図書館を遺す。
おれが会社を継がなかったように、
この図書館もあいつには見てもらえないのかもしれない。
でも、この図書館こそが、
おれが幸せな時間を過ごしたことの証明なんだ。
少しでも、例え一方通行の幸せだったとしても、
確かに、ここにはおれの想いがあったんだ。
それに、実は、おれは信じているんだ。
運命が、あいつとおれとを結びつけた運命こそが、
きっとあいつをこの図書館に、
いつか呼び戻してくれることを。
お前はそんなことはないと言う。
でも、おれはいつか必ず光が差すことを知ってる。
それは必ず。
それは今日かもしれない。
それは未来なのかもしれない。
でも必ず。
いつか光が差すことを知っているから、
今日もおれは本を広げる。