おれは、ついに完成したと思った。
まさに、あいつが目指した図書館。
きっとあいつはこう言うだろう。

「なんてステキな図書館なの。
それにこれを全部読んだの?
あなたは本なんて読めないと思っていたわ。
私もこの図書館で暮らしたい。
いいかしら?
明日からここで暮らしてもいいかしら?」

おれはあいつの目を見てこう言うのさ。

「いいよ。もちろんさ。だって、
この図書館は、おまえの夢なんだから。
作ったのがおれだってだけさ」

そして、おれはあいつが本を読む横で、
本を読むあいつを眺めているんだ。

ある、晴れた日だった。
肌に当たる風が心地よくて、
太陽はいつもよりずっと明るかった。

おれはとなりの県の岬に向かった。

一日歩いて、おれはあいつの実家を見つけた。

おれは呼び鈴をゆっくりと鳴らした。
数秒待って、もう一度、ゆっくりと鳴らした。

出てきたのは年老いた女性だった。

それがあいつの母親だなんて、
最初はとても思えなかった。
全然似ていなかったし、
あいつの母親にしたら
年を取りすぎているように感じたから。

おれは間違えたかなと思いながら、
あいつはいるか、母親に尋ねた。

あいつはもう結婚して、
夫と二人で暮らしてる。

母親からはそう聞いた。

自分は、古い友人だと名乗り、
あいつに渡そうと思って持ってきた、
花束をその母親にやった。

母親はあいつの電話番号を教えてくれた。

おれはできるだけ丁寧に礼を言って、
あいつの実家を後にした。

帰り道、おれは色々と考えた。
不思議とそれほど悲しくは無かった。

仕方の無いことだと感じた。

きっとあいつは、おれに見切りをつけて、
あの校正担当者と結婚したんだろう。

実は、そのことは
これまでまったく想像しなかったわけじゃなかった。

おれは

「仕方が無い」

とつぶやいた。