「部屋にステキな本がたくさんあるの。
一生かかっても読めないくらい。
ああ、まだ読みたいなって思いながら、
おばあちゃんになって、死んじゃうくらい、
面白い本やステキな本がたくさんあるの」

あいつはいつも、その夢を語った。
その夢はきっと真実だったのだろう。
それは本当に夢なのだろう。

なら、その夢をおれが叶えてやろう。

それが夢なら、おれがあいつの夢を叶えれば、
あいつはきっと帰ってくる。

そしてあいつは本を読むんだ。
もう、おれのやりたいことなんて、
あいつは無理をして一緒にやる必要はない。

ただ、あいつの好きなことをしていればいい。

それでも、あいつが帰ってきてくれれば、
それでおれはきっと幸せなんだ。

おれは自宅の近くに家を借りた。
そこに、あいつの希望通りに、
全ての部屋に本棚を付けた。

階段の前には、あいつの好きな
フランスの画家の派手なポスターを飾った。

それからおれは、週に一度、
本を買う以外に家を出なかった。

食事は全て出前で済ませた。

帰ってきたあいつと、
二人で座るつもりのソファー。
それに腰掛けてただずっと、
ただひたすらに本を読んだ。

多分、図書館を作っても、
それだけじゃ、おれには意味がない。

あいつが驚くぐらいおれが本を読んでいれば、
あいつもおれを見直してくれる。
その日をいつも想像して
おれはいつも本を開いた。

週に一度、本を買いに行く日は楽しみだった。
この本を、あいつはもう読んでいるだろうか。
この本を読んでいれば、
あいつはおれを認めてくれるか。
この本は、おれからあいつへのメッセージだ。

思いを胸に、おれはダンボールに一箱、
毎週本を買った。

そして、おれは本を読んだ。